防災備蓄を、特別な箱から出してみた話
押入れの奥のミネラルウォーターが期限切れだった日、僕は防災備蓄をやめてローリングストックに切り替えました。続けてみてわかった、ちょうどいい量と置き場所のこと。
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クローゼットのいちばん奥から、未開封の2リットルペットボトル6本を引っ張り出した日があります。
ラベルの賞味期限を見ると、2年半前。買ったときは「3年保存だから、まあ大丈夫だろう」と思っていたはずなんですけど、忘れていた期間のほうがずっと長かったみたいです。流しに次々と注ぎながら、これを買ったときの自分は何を考えていたんだろう、と少し恥ずかしくなりました。12リットルぶんの水を排水口に流すというのは、わりと精神的にこたえる作業なんですよね。
防災備蓄って、たぶん多くの家でこんな感じになっています。買った瞬間の使命感だけはあるんですけど、買ったあとの居場所が全員、家の「ふだん開けない場所」に決まっている。
今日書きたいのは、その「特別な箱に入れて忘れる備蓄」をやめて、ふだんの食事の延長で在庫を回すローリングストックに切り替えてみた半年の記録です。「3日分」「7日分」みたいな計算は、出てきません。
「備蓄」と書いた瞬間、視界から消える
期限切れの12リットルを流しながら、考えていました。
意識が低いから期限を切らしているわけじゃないと思うんですよね。ちゃんと買って、ちゃんとクローゼットに置いた。ラベルを書いて、家族にも場所を伝えた。それでも切れる。
たぶん、「備蓄」というラベルを貼った瞬間に、それが日常の動線から外れるんです。クローゼットの奥、ベッドの下、玄関の収納の上。家の中で「ふだん開けない場所」に置いてしまうと、開ける理由は災害が起きたときしかなくなる。そして災害は、幸いなことに、賞味期限のサイクルより長い間隔でしか起きません。だから期限が切れます。
当たり前といえば当たり前なんですけど、買った瞬間は「いざというとき用」と思っているので、この単純な構造に気づかない。
もう一つ、地味に効いていたのが「専用品ほど期限が早く感じる」問題です。5年保存水とか7年保存パンとか、長持ちを売りにしたものを選びがちなんですけど、結局それでも期限はあって、しかも普段食べないので消費の機会がない。長持ちする備蓄ほど、長く忘れられる、という皮肉な構造でした。
水は、キッチンの棚に
これがいちばん効きました。
専用の保存水をやめて、ふだん飲んでいる2リットルの水を、キッチンの棚に常に8本置く運用に変えました。家族2人で、1本がだいたい4〜5日で空くペースです。8本あれば、最後の1本が空く頃には、買い物のついでに補充するタイミングが自然に来る。
これを始めてから、期限切れがゼロになりました。当然なんですよね、毎週飲んでいるので。
コツは、置き場所をクローゼットではなく「キッチンの目につくところ」にすることです。少し場所は取りますが、目に入る場所にあると、自然に消費されていく。災害時にどこから取り出すか、という発想ではなくて、ふだん使うものが多めに棚にある状態、という発想に切り替えただけ、という気もします。
8本という数字は、家族の人数や水の使い方で変わると思います。うちはたまたまこの数字でちょうど良くなっただけで、最初は4本から始めて、半年かけて8本まで増やしました。一気に増やすと棚が圧迫されて家族から苦情が出るので、徐々に、というのが続けるコツでした。
月末の金曜は、在庫ご飯の日
レトルトと缶詰は、月末の金曜の夜を「在庫ご飯の日」として固定しました。
レトルトカレー、サバ缶、パスタソース、フリーズドライの味噌汁、棚の奥のインスタントラーメン。災害用と意識せずに、ふだんから食べる前提で買っているものを、月に1回まとめて消費する日を置きます。
献立としては手抜きの夜です。サバ缶のトマト煮を温めてレトルトご飯にかけるだけ、みたいな日もある。でもこれを月1回入れるだけで、家の中の保存食が静かに回り始めました。
効果は二つあって、一つは期限切れが消えたこと。もう一つは、災害時に何が食べられるかを身体が知っていること、です。実際に食べたことのあるレトルトカレーがあるのと、未知のアルファ米が積んであるのとでは、いざというときの安心感がだいぶ違う気がします。停電のときにいきなり試食するより、月末に1回ふつうに食べておくほうが、たぶん心の備えとしても強い。
余談: アルファ米を試食した夜
長期保存食もちゃんと一度試した時期があります。
アルファ米を買ってきて、お湯を注いで、20分待って、家族で食べてみました。味は悪くなかったんです。普通のご飯ほどではないけど、災害時にこれが食べられるなら十分ありがたい、というレベル。
ただ、食べ終わって思ったのは「ふだんは食べないな」でした。月末の金曜にアルファ米が出てきても、たぶん家族から「サバ缶のほうがいい」と言われる。そう感じた時点で、これは僕の家には合わない、と判断しました。長期保存食を否定したいわけじゃなくて、自分の家の食卓に乗らないものは、結局のところ忘れるんですよね。
切らさない最低本数だけ、決めておく
備蓄リストは作りません。代わりに、家にある食料のうち「これだけは家から消えないようにしたい」ものに、最低本数だけ決めました。
水は8本、レトルトご飯は6パック、カセットボンベは6本、サバ缶は4個、レトルトカレーは4個、コーヒー粉は1袋、トイレットペーパーは12ロール。これくらいです。網羅していません。あくまで、ふだん買っていて、災害時にも役に立ちそうなもの「だけ」。
うちはこれを STOQ という世帯向けの在庫アプリに置いていて、最低ストック数を切ったものが買い物リストに自動で乗る作りで運用していますが、これも紙のメモで同じことができます。冷蔵庫に「サバ缶 4以下なら買う」と貼っておくのと、本質的には同じなんですよね。家族と共有できるかどうかだけが違う。
大事なのは「備蓄品」と「日常の食料」を分けないことと、最低本数だけ決めて、それ以外は流れに任せることだと思っています。リストは短いほうが続きます。
やってみてわかったこと
半年やってみて、家の中から「災害用」と書かれた箱が消えました。
水もレトルトもカセットボンベもトイレットペーパーも、ふだん使う場所に少し多めにあるだけの状態。停電や断水が来ても、たぶん2〜3日はこれで暮らせます。3日以上の長期災害には足りないかもしれませんが、3日分が常に切れない状態のほうが、5年保存食を忘れているよりは、自分にとっては安心でした。
完璧な備蓄を目指すのは、たぶん家庭の運用としては続きません。専用品を買って3日分を完璧に揃えるほうが手っ取り早いんですけど、それは数年後にまた捨てます。ふだんの延長で2〜3割多めに持つ、くらいの粗さで回すほうが、結局長く続いた感じがします。
備蓄は、特別なイベントではなく、買い物の習慣の一部にしてしまうと、忘れにくい。整って見える備蓄ボックスより、棚に少し多めの水が並んでいる景色のほうが、自分には合っている気がします。
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