冷凍庫が、いつのまにか地層になっていた話
冷凍庫の奥から、いつ買ったかわからない肉のかたまりが出てきたことがあります。霜にうもれた地層を掘り返さなくて済むように、僕が続けている小さな整理術をまとめました。
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日曜の昼下がり、冷凍庫の最深部から、年明けに作ったカレーが出てきました。
タッパーのフタの裏に、油性ペンで「1/4 カレー」と書いてあります。いまは6月の頭です。半年近く、ここで凍り続けていたことになります。中身は黒っぽくなっていて、煮直してもたぶん勝ち目はない。生ゴミの袋に落とすときに、けっこう手応えがあったのを覚えています。
冷凍庫って、入れた瞬間がいちばん安心する場所だと思うんですよね。「これでいつでも食べられる」と思えるから、扉を閉める手が軽い。でもその安心感が、入れたこと自体を忘れる引き金になっていて、半年後には地層として戻ってくる。今日はその地層と、半年付き合ってきた中で残ったやり方の話です。
冷蔵庫よりも、先に風景になる
冷蔵庫の中身は、勝手に老化します。
葉物が萎れて、ヨーグルトの蓋が膨らんで、肉のドリップが袋の隅に溜まる。扉を開けた瞬間に「これ、そろそろ」が視界に入ってくるので、嫌でも判断させられる感じがあります。
冷凍庫は違うんですよね。1週間前のひき肉も、3か月前のひき肉も、見た目はほぼ変わらない。袋の表面に霜がついているかどうか、くらいの差しかなくて、その霜も湿度や開閉頻度のほうに依存している。古いから古く見える、というセンサーが効かない場所です。
そしてもうひとつ、冷凍庫は「とりあえず入れておく」の心理コストが家のなかでいちばん安い。半額シールの肉、作りすぎた煮物、いただきものの干物、休日に張り切って仕込んだミートソース。判断を先延ばしできる場所が家にあると、人はそこに物を積みます。冷凍庫はその役を無自覚に引き受けているんだと思います。
続かなかったもの
冷凍術の本を3冊くらい読んだ時期があります。日付と内容をマスキングテープに書く、週末にまとめて下味冷凍を仕込む、シーラーで真空パックする。理屈はぜんぶ正しいし、写真の冷凍庫はきれいでした。
ぜんぶ続きませんでした。
ラベルは、買い物帰りの疲れている瞬間にテープを切るのが越えられない。下味冷凍は3週目の日曜に「今日はやらなくていいか」と思った瞬間に終わる。シーラーは出してくるのが面倒で、結局ジップ袋に戻る。続けられないのは性格の問題かなとも思ったんですけど、たぶん「冷凍庫の手前で要求される手数」の見積もりが、自分の生活と合っていなかっただけな気がします。
袋ごと撮る、という雑なラベル
地味だけど、続いていることを書きます。
肉や魚を買ってきて冷凍庫にしまう前に、袋に入った状態のままスマホで1枚撮ります。それだけです。日付はスマホが勝手に持っているので、自分で書く必要はない。「これいつのだっけ」と思った夜に写真フォルダで「冷凍庫」と検索すると、買った日が出てきます。
商品ラベルが見える角度で、雑に撮るのがコツなんですよね。きれいに並べてから撮ろうとすると、また続かなくなる。
ラベリングって、結局のところ書き手の精神状態に依存するんだと思います。書ける日と書けない日があって、書けない日に書かなかったぶんが、半年後の地層になる。スマホで撮るぶんには、疲れていてもできる。手数が3秒なので、サボろうという発想が出る前に終わる感じがあります。
これに気づいてから、冷凍庫の運用は 自分が一番ダメな日でも回るかどうか だけで判断するようになりました。土曜午前の元気な自分が決めたルールは、たいてい平日の自分が落とします。
月初の最初の自炊は、奥から始める
もうひとつ続いているのが、月の最初の自炊だけ、冷凍庫の奥からひとつ取り出して軸にする、というやり方です。
奥から取り出した鶏ももが出てきたら照り焼きにする。白身魚なら煮付けにする。ひき肉ならそぼろにして卵でとじる。スープに放り込めば、だいたい形になります。決まった献立はなくて、出てきたものに寄せるだけ。
これを始めてから、最古層が3か月を超えなくなりました。月に1回、強制的に底が見える日があるだけで、地層は意外と育たないんですよね。
ポイントは、「使い切る日」じゃなくて「ひとつ取り出す日」にしているところです。全部消費しようとすると重いタスクになって続かない。ひとつだけ、ふだんの自炊の主役を冷凍庫に決めてもらうだけ、と思うと気が楽です。冷凍庫を主役じゃなくて素材ガチャだと思うと、月初がちょっと楽しみにすらなります。
余談: 上限という概念だけ、紙に置く
ストックの上限を決める、という話を別の本で読んで、これは効きました。
「鶏もも肉は2パックまで」「冷凍うどんは4玉まで」「カレーのストックは1個まで」みたいに、自分なりの上限を雑に決めるだけです。半額でも上限を超えていたら買わない。これだけのルール。
うちはアプリで残量メモを取っているけど、紙でも付箋でもいいと思っています。大事なのは「上限という概念が家のどこかに書いてある」状態のほうで、ツールは何でも変わらない気がします。買い物の直前にそれを3秒だけ見る、これがあるかないかの差のほうが大きいです。
完全には、なくならない
このやり方で半年回していますが、地層が完全に消えたわけではありません。
奥から「これいつ買ったやつだっけ」が出てくる週は、いまでもあります。日曜の昼下がりにカレーの化石を発掘するような日も、たぶんまた来ます。
ただ、扉を開けたときに「ここに何が入っているか、だいたい分かっている」という感覚は、思っていたよりずっと気分のいいものでした。家のなかに、自分が把握しきれていない領域がひとつ減るだけで、暮らしが少し静かになる感じがします。
ゼロを目指さないほうが、むしろ続くような気がしているんですよね。冷凍庫はある程度地層化する前提で、年に何回か掘り返す日が入っているくらいで、自分にはちょうどいいです。
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